星ト月ヲ見ル人

雑談とネトゲと定期更新型RPGのお話をするところ

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30日:日記予定

鋭い手刀の一撃は、セリーズの肩を突き刺す。

バシュ!と肩から鮮血が噴出す。
(仕留めた!)彼女はそう感じ取った。

…しかし、それでも彼女は…。

「ヒュペっち!ヒュペーっち!!」

苦痛に顔をゆがませながらもヒュペを呼び続けていた。

(なんなんだ、こいつ…)
黒髪の女性に異変が生じた。
一歩下がる。

(なんで、この女は痛みに怯えず、反撃もせず…ヒュペという名前を呼び続けているんだ?!)

ソレは、純粋な恐怖。
さらに一歩下がる。セリーズは一歩前に出てくる。

『いるんでしょ?ヒュペっち!答えて!』
さらに一歩前に、そして、両手は黒髪の女性の肩を掴んだ。

黒髪の女性はもう震えて動けなかった。
ただひたすらな恐怖。セリーズの念に押されているのだった。

(ミレーユ、わかるか。これが『人の心』なんだ。)

黒髪の少女に、何かの声が聞こえる。

(あなたがーヒトとして生まれてーあまりにも酷い人生の中でー、あなたは、怒り、憎しみといった負の感情ばかりをー肥大させてきたのー。そして、『力』を得たときーわずかに残っていたー喜びやー優しさといった感情がー消えたのー)

必死に呼び続けるセリーズの手から光があふれ出し、黒髪の少女を包みこんでいく。

(それでも、呼び起こす力。自分ではなく、他の媒体を通じて呼び起こす。失ったモノ。)

(失った感情)

光の中、様々な光景が映し出される。

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黒髪の少女の幼いころのキオク。自らの肉体を売ることによって生計を立ててた時代のキオク。そして、騙されて殺される瞬間のキオク。
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「や・・・やめろ・・・。こんなもの・・・・見たくない!!」

『…そう。あなたの名前はミレーヌって言うのね。』
頭を抱えて必死に叫ぶ黒髪の女性…ミレーヌに、セリーズがそう言った。
『辛かったんだよね?寂しかったんだよね?』

「違う!寂しくなんて…ないわっ!私は・・・私はぁ!!」

「嘘…だな。本当は寂しかったくせに。」
別の声。
『?!』
一匹の黒猫がそこにいた。
「俺だって元々は暗黒猫だ。ルナのもっとも喰らい闇を見続けてきた。だから、尚更『暗い』感情には敏感なんだよ。」

『ヒュペっち!』
セリーズが嬉しそうに、黒猫のことを呼ぶ。
「ただいま。…でいいのかな?」
黒猫は微笑む。まるで、今まで受けていた苦しみが無かったかのように…。


ミレーヌは光の中、もう一つの光景を見ていた。目の前には彼女が飼っていた黒猫。彼女に力を与え、彼女の腕の中で死んでいった思い。
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貴女は、気まぐれでも、私を拾ってくれた。雨にぬれて汚れて、地に消えようとしている私を拾ってくれた。あのときの感情は未だに忘れることは出来ぬ。
そして、あのときの思いはいまだに…ミレーヌ、我がもう一人の主
よ…。貴女に言えないでいた。だがら、伝えよう。貴女のが私にくれた感情、思い全てを込めて…。


ありがとう。


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エピローグ

「私は永く生き過ぎた。肉体はヒュペにあげるわ。わたしは、本来行くべき場所へ行こうと思う」
ミレーヌはそう言った。

森を出た広い場所。いつの間にか夜は更け、月の温かい光が差し込んでくる時間。
そこにいるのは、2人と一匹。

「行くべき場所……?」とセリーズ。

その言葉に対し、ミレーヌは空を指差した。。
『上か、』
そして、地を指差す。
『下か。まぁ、私は自分自身に負けて罪を犯し過ぎたわ。その償いを・・・・ね。』

「でも、それってなんかおかしくない?」
と、セリーズは首を傾げた。

「罪を犯したから罪を裁かれるのはいいとして……、じゃあ罪から誰かあなたを助けてくれたの?周りが追い詰め続けて、逃げ場もなくて、償えっておかしいと思う」

『なら・・・・わたしはどうすればいいの?このまま消滅しろ。と?』

「消滅するのも、ここにいるのも、償うのも、このままここから人生を生きてやり直すのも、全部あなたが決めていいと思う
なんていうか、難しい言い方とかできないけど……」
「……なんだろう、罪を償うって、それしか選べなかったのに罪って、変な話だと思う……。ミレーヌさんに罪があるのかって、なんか頭の中がぐるぐる回ってて…。
だって、私も……、遺跡の守護者をしていた時は、沢山人を殺すことしかできなかったから。それしかできなくて、それを繰り返していたから」

『わ・・・わたしはここに、存在し続けて良いと?また、この精神…ヒュペと一緒に生き続けて…存在し続けていいと?』

「私は部外者だからそこまでは言えないけど、そこは二人が決めることだと思うよ。
でも、他の人が言う罪しか選べなかったのに、誰もそれ以外のものをくれなかったのにそれを償うなんておかしいと思ったから…。
それにさ? 罪って確か訴えられないと成立しないらしいよ?
私はほら、あなたに襲われたけど生きてるし、訴えるとか罪を犯したとか思ってないもん」

『俺は、ミレーヌの身体を使わせてもらってた身だしな。ミレーヌが何しようが何も言わないさ。まぁ、2人で生き続けるのも良いと思うぜ。……ルナ姉の件でなれちまったし…な。』

「だから、罪があるから去るって考えるより、自分がいたい場所をまず考えたっていいと思う。やっと考えられる余裕ができたんだからさ・・・・って、それでいいの? ヒュペっち」
ヒュペの問いに驚き、セリーズはヒュペの方を見た。

『あぁ。構わないさ。辛い日々だったけど、これで開放されるんだったらな』
別になんともなさそうに、両腕を広げて肩をすくめる一匹の黒猫。

「だってさ?」
セリーズはミレーヌのほうを見て、微笑んだ。

『・・・・?』
ミレーヌは意味がわからず、首を傾げた。

その様子を見て微笑み、セリーズは続けた。
「ヒュペっちも存在していいって言ってるの。それにもう誰もあなたのことを最初から嫌ったりしないし、傷つけようともしない」

『……そっか。ようやく、わたしも友達って呼べる人を・・・・作れるんだ。………ありがとう。』

「なら……、私と最初の友達になる?」
うつむくミレーヌの顔を覗き込んだ。それに気づいたミレーヌは慌てて後ろに仰け反る。顔が赤い。

『な・・・何を言ってるの・・・?!そんな事急に言われても・・・第一、私は貴女を傷つけたばかりじゃない…っ』

「んー、そう? 結構拳で語るってのやってたからかなぁ……
あんま気にならないや。それに嬉しいもん。傷つけあってたけど
今こうやって話してて、友達になれそうだからさ」

そう言うと、セリーズは微笑んだ。
釣られて、ミレーヌも微笑む。




「ようやくー終わったのかなー?」
ミゼリアの声。
「んやー。終わりじゃねぇーだろ。むしろ、ようやく障害なくできるようになって…ここからが本番だと思うぜ?」
と、ヒュペ。

ため息を一つ吐き、逃げる黒髪の女性ミレーヌと追いかけるセリーヌの姿を見つめる。


「そう。ここから……だ。」
そして、もう一度そう呟いた。
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30日目(仮更新:日記

『さみぃぃぃ!!!』

目が覚めて、ボーットした気持ちのままに布団をどける。

…その2秒後。一言目がそれだった。


布団を身体に巻きつけたまま、宿の窓から外を見る。
辺りは一面真っ白。地面にも一歩踏み出すごとにくっきりと地面に足跡が付くぐらいの雪が積もっている。

『雪……降ったのかよ。』
暖房と言うものが部屋に存在していない宿の一室。とりあえず着替えて、女将に挨拶をして外に出る。

『……さみぃ。』

入ってきた道を引き返す。

「あんた、そりゃそうですよ。そんな裸に近い格好なんですもん。いくら若いと言っても、その姿じゃ寒いですよ。」
当然のことだ。いくらヒトじゃ無くても寒いもんは寒い。

部屋に戻り、暖かそうな服を漁る。

「……なんで、俺。半袖とかミニスカしか持ってきてねぇーんだろう…。」

くちゅん!!と一つクシャミをして外を見る。白いものが降りだしていた。

「うわぁー……。マジで雪かよ…。」

どたり。と、器用にヒュペは倒れこんだ。




「もうこんな時間か…。」
胸元に懐中時計を仕舞うと、外を見る。

空は夕焼け色に染まり、遠くで鳥の鳴く声がする。

そんな光景を見て一つため息。そして、視線を下へ移す。一枚の紙。



”Star-spangled Night”
星降る夜のパーティーのお知らせ・・・
来る期日、記載場所でクリスマスパーティを開催します。



「お誘いされたけど、知り合いがいねぇーんだよなぁ。」
苦笑いを浮かべる。

「まぁ、音楽ぐらいは披露出来るか…。」
そう呟き立ち上がると、窓際へと歩いていく。

既に雪はやんでおり、空はまだ雲が多いものの再び雪が降る気配はなさそうだ。
それを確認すると、地図の書いてある紙を手に取りギターケースのストラップを肩に通す。


「しっかし、悴(かじか)んで引き間違えたりしないかなぁ…。」
もう一つため息を吐きドアへと向かう。

『あらあら。ヒュペさんこんな時間に外へ行くのかい?そんな寒そうな格好で?』
階段を下りて玄関へ向かう途中、再び女将に捕まる。そして、強制的に女将の部屋に拉致される。

『あんた、良い女だけど風邪を甘く見ちゃ駄目だよぉ?寒いしうちの宿から凍死した人とかだしたくないからねぇー。』
「いや、あのー、女将さん。何してるんだ?」
がさごそと引き出しを漁る女将。そして、「あったあった。」と言うと振り返ってセーターやらズボンやらを取り出し始める。

『これ貸してあげるから、温かい格好して行きなさいな。あんな寒い格好なんかしていったら、彼氏も驚いて心臓麻痺しちゃうよぉ?』

「いや、彼氏なんていね…」
言い終わらない内に、女将は出した服とヒュペの体格を合わせ始める。
『良いから着て行きなさいな。どうせ、もう着れない品物だしね。若い子が着てった方が服も喜ぶんだよ?』

もうヒュペは何もいえずに苦虫を噛み潰したような顔でうなずくしかなかった。





「ようやく到着……って、結構人いるな。」
見知ってる顔もちらほら。
そう人らと軽く挨拶を交わした後、適当に木に腰掛けてギターを奏でる。

「まぁ、あれだ。アイドルだし、音楽がクリスマスプレゼントって言うのも良いよな?」


星振る夜。人の笑い声と楽器の奏でる音楽に囲まれて、夜は更けていった…。

29日目:日記

森の小道。赤い髪の背の高い女が歩いていた。特に変哲の無い普通の光景。

……と、女が立ち止まり何かに導かれるように天を見上げる。
どこか寂しげな、力の無い風を頬に感じる。そして木々の間からは青空と太陽が見下ろす。

何も無い。あるはずがない。

そう、それが『普通の人間』であればそう感じるはずである。


『………ヒュペっち?』
しかし、何かを感じて、なんとはなしに女は呟いた。
別に意味を込めたわけではない、誰かに聞かせるわけでもない。そんな呟き。そんな問いかけ。





だが、その声が届いたものがいた。


「お前『も』、私のことをヒュペと言うか。」

女の声。赤い髪の彼女がよく知ってるはずの『声』
しかし、その言色は友好的なものではなく、寂しげでそれでいて怒りが篭っていた。

赤い髪の女が振り向いた。そこにいるのは黒い腰までの長い髪。紅い揺らめきを秘めた瞳。そして、黒い翼を背にした女。

……よく見知っている人物だった。あくまでも、一部の除く、外見は。

「『ヒュペ』…あの男もあの女も私を見たらヒュペと呼んだ。なおかつ懐かしそうな顔をした。だが、私はヒュペという名前ではない。……そして、はじめて見たはずのお前も……私のことをヒュペと呼んだっ!! ヒュペヒュペヒュペ!!苛立たしい…。」

そう叫ぶ女の目は明らかに怒りに満ちていた。そして、その目は眼前の赤髪の女に向けられた。

「私には、私の記憶には私自身の名前が無い。そして、まるでそうであるように私の名前をヒュペと呼ぶ貴様らが腹ただしいっ!
ならば、私は私をヒュペと呼ぶ者どもを殺しつくし、そして、私は私自身の私のための名前を……作り上げる。』

黒髪の女はそう言うと、地上へと降り立ち油断無く身構え体勢を低くした。

「まずは……貴様だ。」




「名前が、ないの……?」

目の前の『女』に向かって応えながら、赤い髪の女は無意識に迎え撃つ姿勢を取る。
相手の目を最初見ていたが、やがて相手の機動力の要……、翼を見据える。
相手の行動全体を読み取るために視線を見定めるのではなく、初手を見極めるために。

だが、その表情は『女』の言葉を境に翳りを浮かべていた。

「じゃあ、あなたは誰なの? あなたはヒュペっちじゃない。
かといって、何度か話したあの魔獣でもない……。
姿形が同じでも分かる、あなたはヒュペリウスって名前を持つ存在とは別の人だって」

問いかける。無心に。構えていた拳を、僅かに降ろす。戦う気はないというように。




(こいつ、私を馬鹿にしているのか?)
目の前で構えを解いた女を睨みつけ、ジリジリ…と間合いを詰める。

『私は…わたしだ!!ヒュペでも魔獣でもない!確固とした『わたし』という存在なんだっ!』
地を蹴り上げ、翼を広げて滑空の姿勢を取り、低空で一気に間合いを詰め赤い髪の女の心の臓を目掛けて手刀を繰り出す。

ブォン!!

赤髪の女は、まるで流れるように身体をスライドさせる。そして、そこにあるはずの心臓に目掛けて突き刺した手刀が風を切り、大きく体制を崩しながら着陸と迎撃体勢を取る。
(……ち。この女もか…。どうして・・・どうして当たらない?どうして殺せない?この手は血を……たくさんの血をす・・・・)
ドクン。何かの衝動。ドクンドクンと内から何かが湧き出てくる衝動。

(まだ、求めるの?あれだけ流れたのに?時が経っても…まだ、求めるの?)

「ちぃ…。忌々しい!あらゆる全てが忌々しいっ!我の内に宿りしもう一つの自我も……忌々しい!」
天に向かって叫ぶと、黒い髪の女がもう一度地面を蹴る。次こそ、相手の命と内から湧き出ようとしているものに終止符を打つが如く。

(『ミレーヌ』っ!)

闇雲に相手の胸を狙って手を突き刺す。それを避ける。反撃しようと思えば……彼女の腕であれば出来たはずだった。しかし、彼女はただ避け続けていた。何かを待つように。

------

ヒュペは走っていた。暗闇の中。彼女の…この肉体の持ち主の記憶の最奥を。
そこでヒュペは見たものは、彼女の凄惨な過去だった。幼いころに母を失い、父によって身体を売られ、ただただそれらを悦ばせるために育てられた過去。そんな人生に嫌気をさし実の父を殺す少女。

「怨んでたんだな。自分の生まれた世界を自分の環境を」

ヒュペはその光景を走り見ながら、呟いた。
過去はどんどん今に近づく。

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成長しても生活は変わらなかった。いや、ソレしか彼女にとって頼れるものがなかったのかもしれない。
やがて、彼女は一匹の黒猫を拾う。それが、優しさもひったくれもない、ただの気まぐれだった。

しかし、その生活は彼女に変化をもたらした。怒りや憎しみ以外の感情を彼女に与えたのだ。そしてその感情に戸惑いながらも生活は続く。

……彼女が、裏切られて殺されるまで。


黒猫は普通の黒猫ではなかった。一緒に暮らしていた女に黒猫は生きる力を与える。


問題は。
ソレが強すぎたのだ。


過剰なる力は暴走を起す。心の中は怒り憎しみの感情のみに支配され、ただひたすらに死を撒き散らす。いくら血を浴びても潤うことのない心は町を血の海へと化させた。

いくつかの街が血の海に染まった後、女は一人の少女と出会う。
「あなたも、壊したいの?世界を。全てを。」

言い終わるのを待たず、女は駆ける。そして、心臓を目掛けて手を差し出す。
「良いこと教えてあげる。あなたに足らないのは戦闘経験よ。いくら圧倒的な力を持ったところで、それを活用できないと…』
いつの間にか後ろに立っていた少女は、光をまとった右手を女の背中に当てる。

『貴女よりも戦闘経験のある人には、勝てないわ?』

『ね?ミレーヌ?』
その言葉が合図のように、女は両膝を地に付ける。


『ミゼリア様。』
武装した男達が少女の下に駆け寄り、頭を降ろす。
『終わったわよ。このヒトは私のトモダチを身にまとってるから殺しちゃ駄目。そうね…。怒りの感情を封印して、神殿の最奥に封じ込めて置きなさい。』
少女がそう告げると、男たちは女を抱え上げると去って行った。

『……これで、本当にお別れかもね。黒猫さん。』

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「ミゼリア?」
目の前の歩く小さな姿に声をかける。
『あー、懐かしいのー見せちゃったねー…。きゃー、恥ずかしいーっ!』
フルフルと顔を振る姿に、ヒュペはため息を吐く。

「なるほどな。あの身体、厳重に封印されてるとか言ってたのに簡単に取り出せたのはそのおかげか…。」

『うん。黒猫さんがー、内部からー施していた封印をー解除してくれたのー。彼女がー起きるかどうかー分からないがー、その行為が罪のー償いになるならー……ってーね。』

後姿なので表情は分からないが、どこか寂しげだった。

『さぁ、急ごうー?このカラダが…ミレーヌちゃんが悪いことをする前にー』
「あぁっ!」

2人は再び走り出した。

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『うわぁぁぁぁぁ!!!くそっ!なんで攻撃しないの!なんで、そんな瞳で私を見つめるのよぉ!!』
空を切る手刀。
赤い髪の女…セリーズは見極めていた。彼女の力・速さ共に高水準のものだが……戦闘経験は皆無だということを。

『く!!ヒュペだからか?!私がその『ヒュペ』とかって存在だから、攻撃して来ないの?!』


……と、一瞬女の赤い瞳が黒くなる。

「セ・・・り・・・・っち…っ!」

「ヒュペっち?!」
その声と瞳の色にセリーズは驚いた……しかし、それは同時に油断を招いた。

『うわぁぁああああ!!!』

再び闇雲に放たれる手刀の一閃。

切り裂かれる肉体。
殆ど反射神経で身体をずらしたおかげで傷は浅かった。

「ヒュペっち?いるの?!ヒュペッち!!」

片目が赤、片目が黒の女に、無防御で語りかける。




しかし、その返事は鋭い手刀の攻撃だった。

-続く-


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今回、次回共にセリーズさんを貸していただいております。わざわざ話し合いまでしてくださいまして誠にありがとうございます。

28日目:日記

思えば、短い時間だった。

最初は、俺を生み出したルナへの復讐だけに生きていた。
スキさえあれば、身体を乗っ取ろうとも考えた。

でも、ルナは俺を受け入れてくれた。酷く、無作法に。何も考えてないような顔で。


思えば、これが間違いだったのかもしれない。

あの時、俺はルナに受け入れてもらわず消えていくべきだった。


そうすれば、こんなに悲しくない。こんなに辛くない。

……こんなに、心が痛くない。


魔獣の奥の奥。
暗くて冷たくて…ひどく寂しい場所。

昔の俺なら耐えられたかもしれない。でも、俺は光の下で生きることを知ってしまった。太陽を意味する名前を持ってしまった。

だから……俺は。


「……ちゃん。 ヒュ……ゃん」


うずくまっていると、どこからか俺を呼ぶ声が聞こえてくる。

俺は立ち上がり、声の元を探す。

その周りで、俺が友と呼んだ者達。呼んでくれた者達が現れては消える。

『俺は、『友』を持たなかった方が良かったのかもしれない。そうしたら、こんな悲しさを知らなくてすんだのだから。』

*本当にー、そう思う?*

『俺は、やっぱりあの時消えるべきだった…。いや、そうでなくてもルナ姉の中の暗黒猫として生きていくべきだった。』

*ヒュペっちー、それ聞いたらルナちゃん怒るよー?*

『俺は……俺として自我を得たのがいつからかわからない。なんでそんなものを得たのか分からない。わからないのに…なんで…』

*ルナちゃんね、本当は一人じゃなかったんだよ?*

『へ?』

*ルナちゃんは元々妹がいたの。でも、彼女は幼い時に死んでしまったの*

『妹…?』

*そう。だから、ルナちゃんはヒュペっちの存在を知った時の喜びは大きかったと思う。ヒュペっちを無くなった妹と同じように……んや、それ以上に大切に思ってると思うよ。*

『そんな話、初めて聞いたぞ。』

一呼吸置き、やや強めの口調で目の前の空間をにらめ付けていった。
『ミゼリア。』



『はお、ヒュペちゃん。想像したくは無かったけど、この時期が来ちゃったんだね。』
ミゼリアは、寂しそうな表情でそういった。

あたり一面は相変わらずねばりっ気すら持つ闇に包まれている。

「予想はしていた…って言葉は嘘になるな。宝玉を手にする前ですら、俺は俺自身に飲み込まれようとしていたし…。」
(よくPTに迷惑かけずにこれたよな…。)と呟くと、腰に手を当てて言った。

「・・・で、ミゼリア。そんな俺をこんなところに呼び出してなんの用だよ。」
『ヒュペっち、外がどうなってるか知りたく無いの?』
俺の次の言葉をさえぎるように続ける
『ここはね、記憶の底の底でも、『忘却』に近い部分なの。つまり、上手くいけばここから出られるかもしれないの。』

ふぅ…と俺はため息を付く。出られたとしても、末路は決まっている。現在のような幽霊よりもエーテル寄りの存在である俺は、世界の理の渦に飲みこまれるだけだろう。そうでなくても、肉体が無ければ待っているのは消滅だ。
消滅は死ではない。俺の知ってる人の記憶からも俺のことが全て消滅する。完全に。そして、現状のままでも待っているのは同じだろう。
『それでも……ヒュペッチはもう一度アレと対決しないといけないの。そして、勝たないといけないの!』

ミゼリアの口調が強くなる

『そうじゃないと…ヒュペっちの存在自体消えちゃうの!ヒュペっちの友達からも、私からも……ルナちゃんからも!誰の頭の中からも全ての書籍からもヒュペッチが消えちゃうんだよ?!』

俺は驚いていた。いつもはダラーとしているミゼリアがこんな強い口調で話すことを。
……ここからではミゼリアの顔・姿は見えない。そして、俺はどんな顔をしてるのだろう?


……長い沈黙。それを破るかのように、俺は重い口を開く。


「わかった。俺も夢があるしな。アイドルになるって夢が。」

『………うん!!』

あたりの闇が揺れる。様々な色を混じり。

…俺は、必要とされてる存在なんだろうか?
俺はあの世界にいていいのだろうか?


………今はまだ、その答えは出てこなかった。

27日目:日記

少女は逃げていた。何かから。
逃げても逃げてもソレは追いかけてくる。
身体はボロボロになり、足が千切れそうなほどの痛みでも、止まるわけにはいかなかった。とまったら………○○○れる。
自身の本能がそう告げる。だから、止まるわけには行かなかった。ひたすら逃げて逃げて逃げ続け……そして、見えない壁にぶち当たる。
それでも逃げようとあがき、進もうとする。もうこれ以上は進めないのに…。

やがて、後ろに人影が写る。金色のポニーテールがフラリ…と揺れる。
そして、その顔は自分自身そっくりだった。

彼女は言った。
『やぁ、ヒュペ。』

違う!!
少女は首を振るう。私はそんな名前ではない!!

『じゃ、あなたの本当の名前は?バステト?それとも?』

違う違う!!私の名前は……私の名前は……私の名前名前名前名前なまえなまえなまえなまえなまえnamaeなまええなまえなまえなまえnamaeなまえ・・・・・・・っ!!


名前。私の名前は、何なの?






「目が覚めましたか?ヒュペさん」
誰かの声で私は目を覚ます。どうやら私は布団で寝ていたらしい。どのぐらい寝ていたのだろう、布団の暖かさに身を包まれていて気持ちが良い。
天井を見つめていると、ぼやけた視線と意識が少しづつはっきりしていく。

ここは、どこ?

声をした方に視線を変えると、そこに見知らぬ男がいた。
男は私に向かって微笑んで、黒い液体の入ったコップを渡す。

「コーヒーです。コレ飲んで温まってください。」

私はコーヒーを受け取り、一口すする。
……熱い。顔をしかめた私を見て、男がクスリと微笑んだ。

「良かったー。びっくりしたんですよ?ヒュペさんが倒れてるって聞いたときは。でも、大丈夫そうで良かったです。あ、服はちゃんと女性の方に着替えさせてもらったので大丈夫ですからねっ?!」

服? そういえば、何故か服が違う…。チクリと痛む頭を抑え、辺りを見回す。

「あ、ここは僕のテントですよ。本当は街の宿屋が良かったんですけど、たまたま僕のテントの方が近かったので。」

そう言う目の前の男を見つめる。キオクの片隅に引っかかるが、見たことのない顔。そして見たことのない場所。……私の名をヒュペと呼んだ。私はヒュペではない。この男は私の事を見間違えているのだろうか?

『男。お前の名前は?そして、なんで私の名前をヒュペと呼んだんだ?』

その問いは、目の前の男にとっては予想外だったらしい。酷く驚いた様子で
「…え? え、えっと、ヒュペさん…な、何も覚えてないんですか…? 僕は僕ですし、ヒュペさんはヒュペさんですし………その、えっと……。」
と言った。こいつ、なんだ?私の問いに答えてないぞ…?そう思って口に出そうとすると…

「とりあえず…僕の名前はユウ=ヤトシロです。忘れちゃってるみたいだけれど、あなたの名前は『ヒュペリウス=L=ディスアークウィンド』で、愛称がヒュペさん…そしてヒュペさんは僕らと一緒に遺跡を探検するパーティメンバーさんです……どうでしょう…何か思い出せそうです…?」

……違う。私は記憶喪失などではない。そして、私はずーっと一人だった。仲間などいない。そうだ、この記憶が正常だ。そして、私はヒュペという名前ではない。もっと、ちゃんとした、名前……名前………そう、ヒュペという名前ではなく、もっと……ちゃんとした………

「ヒュペさん?!大丈夫ですか?無理しないで横になってください!」

頭の痛みのあまり頭を抱え込んだ私の姿を見て心配したのだろう、ユウという男が近寄ってくる。

「……っく!触るな!」

手を振り、触れようとした男を一蹴。そして、その行動で驚いてる男の目を睨みつける、立ち上がる。

そして、綺麗に畳まれて置いてある私の服を取り、出口へ向かう。

「ヒ…ヒュペさん!どこ行くんですか?!そんな身体では無茶です!」

背中から響く男の声を無視して外へと出る。風が強い。髪が大きくなびいた。

……どす黒い、私の髪が、何かを求め。
そして、背中の翼を広げる。

「……あれ?髪の色が…?あの、あなたはヒュペさんではな……」

最後まで聞く義理など無いし、私はヒュペと言う存在でもない。力強く地面を蹴り、翼を羽ばたかせた。

ドンドン高度をましていく。眼下には、先ほどの男とその男のテント。

『一晩泊まらせてくれて、ありがとう。』


わたしはそう一言だけ呟き、翼の羽ばたきを強めた。


*---------------*
紹介遅れて申し訳ありません。前回の日記では、ENo.1868 エイリア=エイシスさんを、今回の日記ではENo.1398 ユウ=ヤトシロさんをお借りしました。
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